十七歳の誕生日

掲載日:2006-08-23


 十七歳の誕生日。誕生日なんて小さい頃以外はさして興味はなかった。親からの誕生日プレゼントはいつの間にかなくなったし、誕生日ケーキは駄々をこねてなんとか用意してもらえる。ただし買いに行くのは自分でだ。けど、友達からプレゼントをもらえることもあるし、一つ歳を重ねる日に変わりはない。だからいつもはちょっと嬉しくてわくわくする誕生日。でも今日は違う。違うはずだ。
 口元には自然に笑みがのぼる。いや、どちらかといえばにやける顔を抑えられない。ついつい視線をあちこちに向けて、探してしまう。
(ちょっと馬鹿みたいかも)
 あれから二年経っている。あの人が約束を覚えているとは限らない。覚えていても守ってくれる保証もない。でも期待を抱いてしまう。そんな十七歳の誕生日。

 ***

「あのさー亜里奈どうしたの? 今日変だよ」
 午前の授業はそわそわして全然集中できず、窓側の席なのでずっと校門の方を眺めてた亜里奈に、一緒にお弁当を食べていた里香言った。ついでに人のお弁当箱から勝手にからあげを取って食べている。
「ひどっ! からあげ楽しみにとってたのに」
「ひどってあんた、いつもに比べちゃ断然食べるペース遅いよ。だからお腹すいてないのかなーって思ったこの優しい里香さんが食べてあげたんじゃない」
 しゃあしゃあと言い訳してくれる。
「食べてあげたんじゃなくって、食べたかったんでしょうが」
「そうともいう」
 確かに今日は食べるペースも遅いし、全部食べ切れるかわからないのでもうどうでもよくなった。ひとまずおかずをちゃっちゃと食べてご飯を半分くらい食べてあとは残すことにした。
「残すの? だったらちょうだい」
「里香食うね」
 自分の分を平らげたくせにまだ食うか、と付け加えた里香には嫌みは通じない。
「今日は朝抜きだったからねー。放課後も部活あるし」
 ともかく里香はほっといて、お茶を飲みながらまた外を眺める。
「あんたさ、まさかとは思うけど雪沢待ってんの?」
 お茶が変なとこに入ってむせた。その様子を見て里香は図星なのかとため息をつく。
「あんたこの前笹村が好きとかって言ってなかった?」
「好きとは言ってない。気になるって言ったの」
 笹村とは同じクラスの人だ。亜里奈と特話すことの多い男子で、気になってはいた。
「一緒じゃない」
「違うよ。好きになりかけたんだけどね、雪沢のことが気になってさ……」
 雪沢とは初めはなんとなく話があった。友達だと思ってた。なのにいつの間にか惹かれているのに気づいて、それが原因で友達関係が壊れるのが怖かった。ただそばにいらればよかった。でも中学三年の夏休み、たまたま駅で会って途中まで一緒に帰った時、告白された。夢みたいで信じられなかった。もちろんOKしてつきあいはじめた。
 でも受験生で塾が忙しく、学校以外ではほとんど会うことはできなかった。お互いの受験校が違って、雪沢は「同じ高校いけなくて残念だな」って寂しそうに笑う。本当に残念だった。 「あんた達、受験前にいろいろあったわよね」
 里香は同じ中学出身で仲がよかった。だから亜里奈達のことはよく知っている。

 滑り止めの私立が受かって、二人とも喜んだ。でも、卒業式の一週間前にささいなことでケンカしてすれ違った。受験で不安な時に、お互いを支え合うどころか、逆に苛立ちを重ね合わせてしまった結果だった。卒業式までは、意地と気まずさからほとんど口をきかなかった。卒業式が終わって、みんなで校庭に集まって写真を撮って、そろそろ帰ろうかと人がバラバラといなくなっていったとき、雪沢が一緒に帰ろうと言ってきた。気まずかったけど、今日が最後だったから頷いた。
「俺達、まだまだ子供だな」
 白い息を吐いて雪村は言った。
「そうだね」
 卒業証書の入った箱をいじりながら同意する。自分たちは子供すぎた。最後の最後でだめにしてしまった。
「あさっての入試、頑張ろうな」
 そして雪沢は間を置いてから言った。
「一回、離れてみないか? だけど、迎えに行くから……」
 その時の雪沢の顔が、言葉が、今でも忘れられない。

「それが今日? 二年後の、あんたの十七歳の誕生日に迎えに行くなんてキザのこと約束したんだよねぇ」
「別にキザってわけじゃ……」
「まあ、ロマンチックなんていう人もいるだろうけど、私にはキザにしか聞こえないわ」
 そりゃあ里香はそう言ったことにかわいい感想は抱いてくれない。彼氏いるくせに。
「本当に来ると思ってんの? 二年も連絡とってないんでしょ。忘れてたり彼女できてたりするよ」
 ぐさっときた。でも里香に悪気はない。真実を述べてるだけだ。
「かっ可能性がないわけじゃないし……」
「そりゃそうね。あんただってこの二年間に好きな人……じゃなかった。気になる人がいたのに今日は雪沢待ってるもんねぇ」
 ぐさぐさっときた。でも里香には……以下省略。
「ま、ともかくお誕生日おめでとう。ほれ。プレゼント」
 小さな長方形の箱を投げられた。ラッピングはシンプルだけどしゃれている。細かい英語が並んだ茶色い包装紙で包まれてだけ。亜里奈の好みだ。
「ああありがとう」
「来月の十一月二十日の私の誕生日プレゼント忘れんなよ」
「わかってるよ」
 くれるとは思ってなかった。毎年当日に亜里奈が今日は私の誕生日って言ってからそのことに気づいていた人が、ちゃんとプレゼントを用意してくれていたなんて思いもしなかった。一応は毎年里香が持っているストラップとかアクセサリーとかをついでのようにもらってはいたけど、わざわざプレゼントを用意してくれたのはうれしい。これも彼氏ができたための変化なんだろうか。
 包装をといて出てきたのはブレスレット。シルバーの鎖に赤い小さな石が同じ間隔にぐるりと一周ついていて、真ん中に花の飾りが揺れている。かわいい。
「あんたそういうさりげにかわいいの好きでしょ」
 見抜いてる。

「河田今日誕生日なんだ」
 突然笹村が二人の間に現れた。
「びびるじゃん笹村」
 全然びびっていない様子で里香が言う。
「あはは、ごめんごめん。ふーん河田って十月十五日が誕生日なんだ」
 高校二年生だというのに、結構子供っぽく笑う。それが亜里奈の心臓を速める。笹村とは高校二年になったばかりの遠足で同じ班になってから仲がいい。彼は良くいえば明るく元気で、悪くいえばうるさい奴なので、はっきりいって好みじゃない。なのに鼓動は速まるし頬がたまに熱くなる。好きなんだと思ったけど、違う気もする。いうならば友達としての好きを錯覚してるだけなんだと思うことにした。
「誕生日プレゼント代わりに放課後なんかおごってやろうかー?」
「放課後……」
 もし雪沢が来るとしたら放課後だ。
「あーだめよだめだめ。この子今日は元カレ待ってんだから。とういかあんた部活サボれないでしょ」
 サッカー部マネージャーの里香が冷たく言い放つ。サッカー部の笹村は鬼マネージャーの言葉に怖がった様子はない。
「ちょっ里香!」
 あわてて里香の袖をひっぱる。なにも笹村にそんなこと言わなくてもいいでしょうと心の中で叫ぶ。そんな亜里奈の心中を知ってか知らずが里香はニヤニヤしてる。
「河田彼氏いたんだ」
「中学の時に……」
「でねー亜里奈達ったら卒業式間近にケンカして、仲直りはしたけどいったん別れて亜里奈の十七歳の誕生日に迎えに行くって約束したらしいよー、キザでしょー」
 べらべらとしゃべってくださっている里香の足を机の下で蹴った。
「キザっていうかかっこいいねぇ」
 笑顔で笹村は返す。
 胸が痛くなった。
 なんでだろう。好きでもないのに。
「じゃあ河田。また今度おごるよ」
「え、あ、うん、ありがとう」
「俺の誕生日二月二日。よろしく!」
 誕生日を教えてくれるということは、暗にプレゼントをちょうだいと言われているのだろうか。ヒラヒラと手を振って笹村は男子の群れに帰っていった。なんか、ホント変な感じにつらい。そして嬉しい。
「あんたばかだねぇ」
 いつの間に取り出したのか、里香は持参したチョコチップクッキーを食べていた。

 ***

 今日は教室の掃除当番だ。中学までと違い、机を提げての本格的な掃除じゃないから楽だ。ホウキでゴミを掃いて誰かが適当にちり取りで取ってくれる。十分もかからず終わった。
 窓を閉めながら校門のところを見てみる。雪村はきていない。向こうの学校からここまでは確か自転車ぶっ飛ばしても三十分かかる。来てる方がおかしいのかもしれない。
(家に来るかも)
 ぽけーと外をみてたら、友達のばいばーいという声が聞こえた。とっさにバイバイと振り返った。
(あらら)
 いつの間にか一人になっていた。帰ろうと鞄を取って教室を出ようとしたが、笹村に呼び止められた。部活に行っているはずなのに、まだ制服で立っている。
「部活は?」
「遅刻するって部長に伝えた」
 笹村の入ってるサッカー部は結構厳しかったはずだ。部長は笹村の友達だけど、(ついでにその彼女は里香だ)めったなことでは遅刻を許してくれないと聞いている。
「よく許してくれたねぇ。どうしたの?」
 いつもひょうひょうとしている笹村がやけにぴりっとした雰囲気をしていた。不安になる。笹村はいつもの笹村じゃなきゃ嫌だ。
「もう、彼氏迎えに来てるの?」
 固い声だった。
「ううん……まだ。ってか来るかどうかもわかんないし」
「椅子に……座らない?」
 帰りたいんだけどーという言葉は呑み込んだ。雪沢が学校の方に来るかもしれないし、あとに十分くらいは待ってもいいかもしれない。そしてなにより、今の笹村はちょっと怖い。逆らえない空気がある。
「来るかどうかわかんないのに待つの?」
「まあ……」
「なんで?」
 なんでってどうしてそこまで突っ込まれるのかわからなかった。
「もう一度会いたいから」
 嘘じゃない。別に雪沢に彼女がいようと、もう一度会いたかった。相手がそう思ってくれているかは知らないけど。
「まだ、好きなの?」
 まっすぐと目があった。そらすこともできないし、戸惑った。
「えーと、その、よく……よくわからないの。好きは好きだけど、今も昔みたいに好きかどうかはわからない」
「じゃあ、俺のことは?」
(へ?)
 いっいまなんと! 一時的に亜里奈はパニックに陥った。『じゃあ、俺のことは?』それってどういう意味! 心の中で絶叫する。普通に考えると、笹村が私のことを……。
(いやいや)
 そんなわけはない。これは……そう、単に心配してくれてるのよ! 私が好きかどうかわからないって言ったから、きっと笹村は私の好きが笹村に対してと同じ友達としてだと伝えたいだけなのよ! と、必死に考えをめぐらせた。
「俺は河田のことが好きだ」
(ああ……)
 作り上げた考えが崩れた。
「河田は俺のことどう思ってるんだ?」
 笹村の目は真剣だった。頬はほのかに赤いし、体だった固くしてる。勇気を振り絞っての告白だということが一目瞭然。
「わっ私は……」
 頭が真っ白で言葉が出てこない。その目を直視することがこれ以上できなかった。気づいたときには亜里奈は「ごめんなさい!」と叫んで教室から逃げ出してしまっていた。

 ***

 走った。下駄箱に着いた途端、一気に体から力が抜けてへたりこんでしまう。頬が熱い。誰が見たって真っ赤っかだ。胸が苦しい。全力疾走したせいだけじゃない。手で顔をおおった。
「――――」
 一分くらいそのままだった。なんとか立ち上がって靴を履きかえて校門に向かった。

 ***

「おーう笹村。どうだった?」
 部活に行ったそうそう部長の東道が陽気に聞いてくる。笹村は無視して準備運動をはじめた。
「なによ。遅刻許したのって笹村が亜里奈に告るからだったの」
 マネージャー兼東道の彼女の里香が割り込んでくる。東道は「どうだった?」としか聞いていないのになんで告白したことまでわかるんだとうなだれた。この二人がそろえば、いやでも口を割らされるだろう。
 東道は練習には厳しいが、恋愛事には甘い。今回の笹村のように告白をするためなら遅刻しようが何だろうがちゃんと伝えておけば大目に見てもらえる。だがつきあいはじめの二週間以外は練習をサボらせない。まあ、誕生日やらクリスマスやらといったイベントは別だが。
「で、どうだったの?」
 同じことを里香も聞いてくる。
「こいつ無視するんだぜ」
 はいはい悪かったねーと全身で訴える。
「「ふられたか」」
「ハモっていただなくても結構です!」
 ついに笹村は吠えた。
「元彼にもう一度会いたいんだって言われました! ごめんなさいって言って逃げられました!」
 なぜか敬語で叫んで笹村はランニングに行ってしまった。校庭五周を全力疾走で。
「あーもー亜里奈もばかなんだかー」
 里香は空を仰いだ。

 ***

(笹村が私のことを好き……)
 歩きながら考える。
(じゃあ私は?)
 好きだ。だけどそれは友達として。さっき逃げ出したのは、もう振ったことも同じだ。笹村だってそう思っているはずだ。もう、今まで通りの関係は望めない。
 笹村の気持ちを知ってしまった。笹村を拒絶してしまった。
 鼻がつんとした。涙の気配。どうして涙が出てきそうになるかわからなかった。強く瞳を綴じて涙を引っ込める。
「なにやってんの?」
 声をかけられた。校門から少し出たところ。この声には聞き覚えがある。今でも鮮明にあの日のことを覚えてる。あの声も、言葉も、表情も。
「……雪沢」
 目を開ければ思った通りに雪村が照れ臭そうな顔で立っていた。背は昔より伸びている。髪も、茶色く染められている。
「ひさしぶり」
 そう言って、彼は笑った。

 ***

 二人はここではなんなので近くの喫茶店に入った。ヘタにファーストフード店に入って友達に会うのもいやだったし、こっちの方が落ち着いて話せると思ったからだ。
「河田は変わってないな」
「そっちは変わったね。背ー伸びたし、髪染めてるし」
 ぎこちないけど、精一杯普通に会話をする。
 頼んだ紅茶とチーズケーキが亜里奈に運ばれてきて、雪沢にはレモンティーとチョコレートケーキが運ばれる。
「約束……覚えててくれたんだ」
 チーズケーキをつつく。
「忘れるわけないだろ」
 昔と変わらないトーンのしゃべりかた。雪沢のケーキを食べていた手が止まり、、のぞき込むように亜里奈を見る。
「お前は、まだ俺のこと好きなのか?」
 こう聞かれることは予想していた。
「わからない」
 笹村に言ったのと同じように返す。
「俺、今日はけじめをつけに来たんだ」
 フォークを置いてテーブルを見ながら雪沢は言う。
「この約束があって、お前にずっと気持ちが残ってた。でも俺、今付き合ってる子がいるんだ。だから……けじめをつけるために会いに来た」
 ショックではあった。彼女がいると直接聞くのはやはり傷ついた。けれど動揺したり、泣きたくなったりはしなかった。
「お前のことはもちろん好きだ。昔とは違って、友達としてだけど……」
 雪沢の言葉がなにかをつなげる。思い浮かぶのは笹村のこと。いつの間にか近くにいて、自分を想っていてくれた人。亜里奈は急に理解した。笹村のこと。
「……私、今日告白されたの。クラスの仲いい人に……。その人のこと好きだったけど、友達としてだって思ってた。思い込もうとしてた。実際雪沢のことが気にかかってたし、自信がなかった。だから今日その場から逃げ出しちゃったの」
 涙があふれる。それを見ても、雪村は優しくほほ笑んでくれる。
「でも本当はすごく嬉しかったの。逃げ出しちゃったこと後悔してるの」
 教室を出る瞬間に目に入った笹村の泣きそうな顔。
「好き。友達としてじゃなかった。ホントに好き……」
 泣きじゃくる亜里奈の頭を、雪沢はなでてくれる。
「どうしなきゃいけないかは、わかるな」
 頷いた。
「ごめんな、俺があんな約束したから、河田を苦しめた」
「あやまらないで。この約束があったから、受験のとき頑張れた。それからも、支えになってた。今日だって、待ち遠しかった。もう一度会いたかった。だから私はこの約束があってよかったの」
 もしかしたら亜里奈もけじめをつけたかったのかもしれない。
「そうだな。俺も河田に会いたかった」
 その時の彼の笑顔は本物だった。

 ***

「ふてくされてるねー」
 お茶の用意をしていた里香は、ミスがいつもの数倍ある笹村を見ていた。
「仕方ないといっちゃ仕方ないけど、あれじゃ他の奴らに迷惑だな」
 東道は容赦ない。早速笹村を呼び付け、今日はもう帰っていいと言い渡した。
「明日までに立ち直ってこい」
 無理な要求だ。
「できると思ってんの?」
 恨みがましい笹村の言葉に、あっさりと言い捨てる。 「努力だ」
 こいつにはなに言ってもだめだと悟った笹村は、しぶしぶ帰り支度を始めた。

 ***

 笹村がいなくなってから、里香がまたため息をつく。
「なんか今日はため息多くないか」
「多くもなるっての。笹村かわいそうにー」
「お前は友達の味方じゃないのか?」
 いつもなにかと亜里奈の味方をしているので、東道は不審に思った。里香は里香で疲れたように笑った。
「亜里奈は笹村のこと好きよ。絶対」
「ならなんで振られたんだ」
 当然の疑問。
「中学のときの元カレが十七歳になったら向かえに行くっていう約束のおかげで、自分の気持ちに気づかないようにしてたみたい」
「そのを約束のことを笹村は知ってしまったのか」
「ごめん。言ったの私」
「あほか」
 あきれられた。

 ***

 家路についた笹村は情けない気持ちでいた。
 本当に好きだった。
 向こうも、自分のことを受け入れてくれるような気がしていた。
 勝手な思い上がりだった。
(明日、顔合わせずらいなぁ)
 もしかしたら無視されるかもしれない。ますます落ち込んだ。
 その時誰かとぶつかった。笹村はこけなかったが、相手は悲鳴つきでこけたので手を差し伸べる。
「すいません。ボーとしてたもんで……」
「いや、こちらこそ急いでいたから……」
 目が合った瞬間、二人は止まった。笹村の目の前には、亜里奈がいたのだ。

 ***

 焦った。
 笹村に会うために学校に戻ろうとしていたのだけど、学校に行く途中で会うなんて思いもしなかった。
「ぶっ部活は?」
「帰っていいって言われた」
「そそそそうなんだ」
「河田こそどうどうしたんだよ。彼氏は?」
 暗い顔で聞いてくる。
「会ったよ。さっきまで一緒だったの。でね、その……」
 ああ、勇気さん。力を貸して。必死に気持ちを言葉にしようとする亜里奈だったが、笹村がそれを知るわけもなく亜里奈の前から歩き始めた。
「よかったね」
 そんな言葉まで残して。
(よっよかったのはよかったんだけど誤解してる――!)
 無我夢中で笹村の手にしがみついた。それに驚いたように笹村が振り返る。
「わっ私笹村のことが好き」
 言ってて顔が熱くなる。
「さっきはごめんね。自分の気持ちが分からなかったの。でも雪沢と会って、わかった」
 もう嫌われちゃったのかもしれない。でも気持ちは伝えたい。言いたいことはまだまだあるけど、それ以上は言えなくて口をつむぐ。
 沈黙が落ちた。
 亜里奈は自分の鼓動だけがやけにはっきり聞こえてさらに顔を赤くなる。しばらくはそのままだった。しかし突然、笹村は亜里奈を抱き締めて、ズルズルと座り込む。
「マジで?」
「うっうん」
 息を大きく吐き出したのが、耳をっくすぐったのでわかった。
「嬉しい」
 そのまま彼は、もう一度言ってくれた。
「俺も好きだよ」
 鼓動がこれでもかというくらい早くなった。
「今日は気持ちの落差が激しいなぁ」
 それは私もだよ、という言葉は、胸の中にしまっておく。
 今はただ、この温もりを感じていたかった。

 ***

 十七歳の誕生日。
 雪沢がくれたものは勇気だった。
 笹村がくれたものは、恋だった。


 高校一年の時の小説を修正したものです。名前の読みは変わっていないけど、漢字は変えましたね。昔は妙に難しかったり変な組み合わせの漢字を使っているので。それにしても、このストーリーってどうよ? って感じです。なんか都合よすぎで。あといくら修正を加えようと、あの頃の文章がベースなのでなんか違和感があります。「〜した」っていう表現が連続しているところとか。

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