君を想う幸せ

掲載日:2011-01-01

 ふとデジタル時計に視線を向けたら、「0:03」を表示していた。いつの間にか年が明けていたらしい。なんか損した気分だな。
 ぐぐっと伸びをして、床に放り出してた携帯を手にする。着信も受信メールもない。まだ三分だもんな。あいつなら時間ピッタリに連絡してきそうだけど、この時間は電波状況もよくないし仕方ないかな。
 携帯を開いて見つめたまま、クッションを抱いて床にそのまま転がる。大掃除ついでにふかふかの新しい絨毯を敷いたから、ベッドに移動しなくても温かくて気持ちい。うん、いい買い物をした。思わずくふふと笑ってゴロゴロしてしまう。
 携帯はまだ音楽を奏でない。
 一緒に新年を迎えられないのは別にいいんだけど、ちょっと寂しいかな。付き合いはじめたのは一月半ばだったから、恋人になってからはじめての年明けだったし、一緒に過ごせないなら寂しくてもいっか。うん、正しい反応。
 あいつが「ごめん、年末年始は忙しいんだ」と言った時はそんなに気に留めなかった。だってあいつのサービス業だし、年末年始はどうしたって忙しい。私も歳末バーゲンも初売りも大好きだから、むしろ仕事してくれてる人には感謝している。
 でも、やっぱり連絡のひとつくらいは欲しい。明日は早いからもう寝てるのかもしれないけど、あいつのことだから年明けてからメールのひとつはくれると思ったのになぁ。
 寂しい。寂しい寂しい。……寂しいけど幸せ。
 クッションを抱え込み、ちゅっと携帯にキスをする。年が終わろうとしている時は寂しいとも会いたいなとも特別に思わなかったのに、気づいたら年が明けてたなって思ったとたんにそわそわしてた。年明けの電話かメールをくれるものって無意識に思ってた自分に笑える。かわいいなぁ私。
 ってか、もう十五分過ぎたじゃないか。まだ連絡ないよ。もとから連絡するつもりがなったのか、電波状況が悪いのか。
 ……こっちからメールしちゃおうかな。本当に寝てるかもしれないから、電話はやめておこう。寝てて気づかないにしたって、明日の朝起きてから誰よりも一番最初に「あけましておめでとう!」って伝えたいしね。というわけで、他の奴は誰一人としてあいつにメールするなよ。たとえメール来てても、私のを一番に開けよ。
 カチカチとおめでとうメールを打ち込んで、かわいい画像を添えてみた。でもタイトルは「一番先に開きましょう」だ。よし完璧。送信しちゃおう。えいっ。
 ひとまず満足したし、私も寝ようかな。眠くないっちゃないんだけど、朝早くから福袋バトルに参戦するしね! やっぱお正月といえば初売り! 福袋! お金もたっぷり下ろしたし、クレジットもあるからがっつり買うぞ! 楽しみだなぁ。
 初詣は、あいつが仕事休みもらえてからでいいんだ。別に屋台とか興味ないし、二人でゆっくり参拝できればいいしね。着物はどうしようかな。一人暮らしするって家出た時にひとつ持たされたから家にあるし、子どもの頃から仕込まれたから一人で着れるけど、二人でまったりしたいなら動き制限されちゃうしな。あいつも、三が日の間なら着てほしいって言うかもしれないけど、それ過ぎたらわざわざそんなこと言ってこないだろうし。
 うーん、どうしよう。私はどうしたいかな。この時期しか着る機会ないっちゃないもんな。……よし、着よう。ついでに実家から父さんの着物かっぱらってきて着せよう。見たいしね私も。
 えいっと起き上がって、傍のベットに改めて潜り込む。
 明日の朝、起きたらあいつからメールの返信があるといいな。


 彼氏さんは、メールするつもりだったけど初売りの準備で疲れて帰ったら速攻で寝ちゃったんだよ。もちろん起きたら彼氏からメール届いてて、ついでに留守電にも「あけましておめでとう」ってメッセージ入ってると思うらぶらぶカップル。

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