どうしてと呟いても

掲載日:2010-11-04

「どうして、だろうね」
 深紅のバラを愛でながら、君は感情の抜けた横顔で呟いた。
「こんなに好きなのに、どうしてダメなんだろう」
 答えなんて君だってわかりきってるだろうに、問わずにはいられないやるせなさ。僕も君も、頭では理解していても気持ちは納得できない。納得できないけど、抗うこともできない。
 好きだった。愛してた。これからも共に歩むのだと信じてた。それは無理だと思い知ったその日、僕らは大人になるしかなくなった。愛する人と決別し、決められた手をとるしかなかった。
 どうしてと問う君に、僕は何も言えない。恋愛も結婚も個人の意思じゃどうしようもない僕らには、「どうして」なんて愚問。それは許されないからとしか言いようがない。敢えて言うなら、享受する全てのものの対価だ。生まれながらにしてあらゆるものを捧げられていた故に、心のままに手を伸ばすことはできない僕ら。
 望んだことは全て叶うような世界に住んでいたから、きっと二人は結ばれると思っていた時代もあった。愛しているから、愛されているから、隔てる壁などないと無邪気なくらい信じていた。
 けれど成長と共に知ったしがらみは僕らの心に食い込み、どうしようもないのだという絶望を刻み付ける。そして僕らは大人になるんだ。悲しいけれど、そういうものだ。
「でも私、あなたとの結婚が嫌なわけじゃないの」
 君はこちらに視線を向けると、柔らかく微笑む。でもその瞳には強い力に満ちていて、気高く美しかった。
「あなたと共に歩むと誓うわ」
 そこに愛はなくても、情と信頼という絆は繋いでいける。与えられたものを、背負うものを、投げ出さずに全て受け止めるために、僕らは決められた道を歩もう。

 ――互いに愛する人と結ばれずとも、君の手をとろう。


 短すぎるからアップするか迷ったけど、一応。

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