だるまさんのうた

掲載日:2007-01-19

「だーるまさん だーるまさん だーるまさんがーこーろんだ
 コロコロコロコロころがった コロコロコロコロどこいくの
 あたしもいっしょにころがった あたしもコロコロどこ、」

「ねえ!」
 僕は大声で歌を邪魔して、女の子を振り向かせた。
 びっくりした顔で僕を見た女の子は何度か瞬きをした後、「なあに?」と笑う。

「君はここでなにしてるの?」
「あなたはなにしてるの?」
 聞いたら聞き返された。
 答えるのは恥ずかしいけど、僕は嘘をつかないことにしているんだ。
 嘘つきは泥棒のはじまりなんでしょ? 僕、泥棒になりたくないもん。
 だから、かぶっていた帽子のつばで赤くなった顔を隠して、小さな声で「迷子になったんだ」と言った。
 そしたら女の子は「ふーん」とひどく嬉しそうだ。

 今日はパパとママとで山登り。
 だけどいつの間にか二人はいなくなっていて、僕は一人置いてけぼりだ。
 二人と一緒にいる時はこの山もきれいで楽しかったけど、いまは怖い。
 何かが出てきそうだし、ちょっと山道を踏み外したら山から転がり落ちてしまいそうだ。
 だから、女の子の歌が聞こえた時は、ホントは少し怖かったんだ。
 山道に座りこんでいた姿をみて、ちゃんとした人間の女の子だったから安心した。

「君は何をしてるの?」
 すると女の子は、きらきらした目で僕を見て「待ってたのよ」と言った。
 その目がホントまっすぐに僕を映すから、変な気分になる。
「もしかして、僕を?」
「そう、あなたを」
 かわいい顔を、ぐいっと近づけてきた。
 女の子は僕のかぶっていた帽子を取って、自分の頭にのせる。
 そして、王女さまみたいにほほ笑んだ。

「――待ってたの、あたしのかわり」

 ほほ笑んだまま、女の子は僕の体を力いっぱい押す。
 僕は山道から投げ出され、山の斜面を転がっていく。

 訳のわからないまま堕ちていく。
 訳のわからないまま女の子を見つめる。

 僕の帽子をかぶった女の子。
 僕が立っていた場所で歌い出す女の子。

 その姿はどんどん遠くなっていくのに、歌声は妙にはっきり聞こえた。

「だーるまさん だーるまさん だーるまさんがーこーろんだ
 コロコロコロコロころがった コロコロコロコロおちてった
 あなたもいっしょにころがろう あなたもコロコロころがった
 あたしのかわりにおちてった」


 童話とかを書く課題で提出した小説。……ホラー。童話じゃないです。
 一人で適当に歌っている時に出来た『だるまさんのうた』が使いたいばっかりに書いたので、内容自体はオーソドックス。原稿用紙二枚という制約があったので、提出したものは改行や文章がもっと少なかったです。

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