モノローグ・ログ5

掲載日:2010-01-14

君と僕

 僕が笑うように、君は泣いた
 僕が夢を見るように、君は絶望を見た
 僕が君を愛するように、君は僕を憎んだ
 僕が思い出を積み重ねるように、君は苦しみを積み重ねた

 決して交わらない、僕と君

雪と私

 雪が降れば
 部屋から飛び出すの

 雪が積もれば
 足跡をたくさん残すの

 雪が吹雪けば
 その場で横になるの

 雪が止めば
 体が埋もれているの

 雪が溶ければ
 私も消えてしまうの

残されたもの

 とらわれる
 絡み付くように私をとらえていく
 胸の中があの人で埋め尽くされていく

 気づいた時にはあの人を想っていた
 逢ったこともないのに誰よりも知っている人
 ちょっとした癖まで鮮明に思い出せる

 逢いたくて逢いたくてたまらない
 どこにいるかなんて知らない
 それでも逢いたい

 生まれた瞬間から絡めとられた
 誰かが私の胸の底であの人のことを想ってる
 そして私もあの人を想う

 残された想いは、私をとらえて放さない
 あの人以外、想うことを許さない

 でも、

 想いたい人は別にいる
 私の傍に私を想ってくれる人がいる

 ……だから、放して?

貴方のためなら

 本当に大好きだった
 とてもとても大好きだった

 貴方のためなら
 何だって出来ると思ってた

 だから放たれた言葉を否定した
 だから差し出された手を払いのけた
 だから泣いてる貴方に背を向けた

 苦しむ貴方のために出来ること
 道を違える貴方のために出来ること
 それは貴方を傷つけることになるだろう

 けれど私はそれを選ぶわ
 貴方に嫌われようと恨まれようと
 私は「それは間違っている」と叫ぶの

 悲しみに囚われ今を壊そうとしている貴方が
 それで目を覚ましてくれると信じて

 私は貴方が大好きです

 貴方のためなら
 貴方を失ってかまわない

炎に飲まれてもなお

 赤い、赤い炎が舞い上がる。
 闇夜を照らす激しい炎が、私の世界を呑み込んでいく。

 ――燃えろ。全て燃えてしまえ。

 この想いも、
 この怒りも、
 この痛みも、
 この苦しみも、
 この切なさも、
 この裏切りも、
 この憎しみも、
 この思い出も、
 全て全て燃え尽くしてしまえばいい。
 私の全てが灰になってしまえばいい。
 熱風に晒され乾いた目が痛い。
 そう、この涙は乾いた目を潤すための涙。
 あなたのために流す涙なんかじゃない。

 ああ、なのに――。

 どうして私はここにいる。
 どうして私は息をしている。
 どうして私はあなたを忘れられない。
 どうしてあなたは――。

 あなたの一番の罪は、私を死なせてくれなかったこと。

 最後にひとつだけ信じてください。

 貴方を欺くばかりでした。
 貴方を傷つけるばかりでした。
 貴方を追い詰めるばかりでした。

 それでも尚、
 信じてほしいと言う私を恨んでくれてかまいません。

 憎んでください。
 呪ってください。
 殺してください。

 けれどひとつだけ信じてください。
 嘘だと分かっていても信じてください。

やり直したかった

 私を見る貴方の目が怖い
 私を呼ぶ貴方の声が痛い

 どうして貴方は私を嫌うの?
 どうして貴方は私を疎むの?

 尋ねたところで答えは返ってこない
 私がその答えを知っていると分かっているから

 出会った時から愛されないと決まってた
 ただの友達になることすら許されなかった

 全部最初からやり直したかった
 真っ白な状態でもう一度貴方に出会いたかった

 だから私は悪魔の手をとったの
 貴方の記憶から私という存在を消し去ったの

 そしたら貴方は初めて私に笑いかけてくれた
 優しい眼差しを暖かな声を私にくれた

 でも、それだけ

 憎悪であろうと嫌悪であろうと
 貴方の中には私でいっぱいだったのに
 今では心の片隅にも私はいないのね

 愛されたかったから記憶を消した
 記憶を消したから貴方の心から私はいなくなった

とっくに止まらない

 悪気なんてなかったことはわかっている

 ちょっとした悪戯
 本当なら何の害もない子どもの悪戯

 偶然を装って再会しただけ
 楽しく会話を重ねただけ
 そう、たったそれだけ

 でもね、私はあなたが好きだった
 ずっと前から好きだった
 再会できて嬉しかった
 話しかけてくれてドキドキした

 あなたも私が好きなのかなって、思ったの

 妹が恋人を紹介してくれた時、目の前が真っ暗になった
 隣に立つのはあなただったから
 二人は笑って、「びっくりした?」と言った

 あなたと再会したのは、偶然じゃないのね
 妹から聞いて、わざわざ会いに来てくれたのね
 私を驚かせるために、会いに来てくれたのね

 そんなことを知ったとしても、もう遅い
 もうとっくに止まらない
 私はあなたが好きなのよ

 本当なら何の害もない子どもの悪戯は
 私にとっては残酷な悪戯だった

だから誓う


 でも結局、貴方が見てるのはお姉ちゃんよ。
 死んじゃったお姉ちゃんよ。

 ちっちゃな頃に親の離婚で離れ離れになって、
 つい最近まで消息も知らなくて、
 知った理由は事故でお父さんもお姉ちゃんも死んだからで、
 遺品整理で見つけた写真に最近良いなって思ってた人が写ってて、
 お姉ちゃんの恋人って分かったけどでも好きで、
 私が死んだ恋人の妹って知ってるかも分からなくて、
 付き合ってキスをして肌を重ねてプロポーズを受けて、
 周りは貴方とお姉ちゃんのこと知らないから祝福してくれて、
 でも貴方の目にはお姉ちゃんしか映ってないと気づいちゃって、
 どんな言葉も優しさもお姉ちゃんに向けたもので、
 たまに囁かれるお姉ちゃんの名前に泣きたくなって、
 無自覚なのか確信的なのか分からない貴方が憎らしくて、
 憎くて憎くて愛しくて、
 どうしていいか分からないのよ。

 出会った順番が悪かった?
 私はそんなに魅力ない?
 お姉ちゃんの愛に負けるっていうの?
 なんで死んだ人ばかり求めるの?

 私を見てよ私はここよ目の前にいるのは私なのよっ!

 許さない許さない許さない。
 お姉ちゃんも貴方も許さない。
 愛してるのよ貴方がほしいのよっ!

 お姉ちゃんはもういないの。
 貴方の隣で純白のドレスで笑っているのは私なの。
 これからの日々をともに生きるのは私なのよ。
 時間ならいくらでもある。
 貴方のためならいくらでも捧げてあげる。

 貴方が私を愛してくれる日が来ることを信じてる。
 だから、私は貴方と結婚します。

 お願いだから私を見て。

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